時間を含む贈与の本質は、形のないものが形を取り、また形を失う過程の中にあります。
この章は、贈与と時間を多次元的に探求する試みです。
水彩画における色と形の関係は、与える者と受け取る者の間に生まれる、定まらない関係性のようでもあります。それは一方向的な行為ではなく、時間とともに常に生成され続ける「贈与の場」でもあり、ダンボールの抽象彫刻のように物質性を持ちながら多元的な力を伴うものは、抽象的な意味で贈与の力を表しているようにも思えます。
柔らかい鏡は、固定された視覚的な真実を拒否します。それを曲げ、捻ることで生まれる反射像は、他者や時間の存在をゆがめ、再解釈させる働きがあるでしょう。
水彩の流動性、ダンボール彫刻の物質性、柔らかい鏡の反射と変容、これらはすべて、贈与が持つ多次元的な力を象徴しているともいえないでしょうか。
時間を伴う贈与は、物質の流動性、空間の変容、そして観る者や行為する者との関係性を生み出すのです。
溝口栄穂
アーティスト。2016年に自身に起こった啓示的な神秘的体験とそれ以来引き起こされる統合失調感情障害という精神的障害とその精神的体感から着想を得て、2024年に再発症した際から、主に水彩などで色彩を表現のメディウムとして扱い、セルフケアおよび神秘主義という二面性のある作品を制作している。主な展示に、「What can we do to stop climate change?」Curry Rice Gallery(オンライン)、「救済?」GALVANISE gallery(宮城)など。

Untitled
溝口栄穂
2024
紙に水彩
10cm×14.8cm

Untitled
溝口栄穂
2024
紙に水彩
10cm×14.8cm

Untitled
溝口栄穂
2024
紙に水彩
10cm×14.8cm

Untitled
溝口栄穂
2024
紙に水彩
10cm×14.8cm
武吉日陽莉
彫刻家。無料で手に入れられるリサイクル素材としてのダンボールを利用し、造形性と共に、物質的価値と消費社会への問題提起、生産手段の共有化などを象徴するかのようなイメージを持ちながら、抽象的な彫刻を制作している。

無題
武吉日陽莉
2024
段ボール
サイズ不明

無題
武吉日陽莉
2024
段ボール
サイズ不明

無題
武吉日陽莉
2024
段ボール
サイズ不明

無題
武吉日陽莉
2024
段ボール
サイズ不明
楡木真紀
詩人。主に無目的な意味の関係性を目指した散文詩の執筆や全くもって関係のないナンセンスなことを書く自由日記、レディメイドのインスタレーションを制作したり、柔らかい鏡を使ったパフォーマンス、他のアーティストのパフォーマンスや個展タイトルの考案などをしている。主な展示に、2024年「王国がくしゃみをするとき、あなたはマイクロウェーブしている?」callbox(東京)、「成功への第一歩は、ハッピーハッピーガムテープ、ミケランジェロ風アイスクリームにな〜れ!から始まります」Curry Rice Gallery(オンライン)など。主なパフォーマンスに、2024年「一那由多のちょんまげスプーン」千秋公園大手門の堀遊歩道(秋田)など。



一那由多の
楡木真紀
2024
鏡(樹脂)
パフォーマンス
photo:伊藤幹子
installation view:千秋公園大手門の堀遊歩道(秋田)